2013/09/30
"サプライズは海を越えて" くまモンが熊本を元気に!
熊本県のPRキャラクターとして、2010年に誕生して以来、ついに今年はヨーロッパにも進出。全国雑誌の特集取材も相次いでいるという、くまモン。その人気は、ゆるキャラという存在を超え、熊本の元気を牽引していると言っても過言ではない。熊本県ブランド推進課の成尾雅貴課長に聞く、くまモン戦略と今後の展望とは?
「世界的キャラクターと肩を並べる!?」
熊本の街を歩けば、くまモンを見ない日はない。駅も空港も街角も。驚くことに、県外でも、至る土地、場所でくまモンが目に飛び込んでくる。
さらに今年になって、全国雑誌での紹介も相次いでいる。「女性セブン」「GOETHE」「日経デザイン」「販促会議」「DIME」「日経トレンディ」「プレジデント」などのそうそうたる雑誌がくまモンの特集を組んでおり、その広告効果は計り知れないものがある。とある雑誌の記事によると、「ハローキティ」「ミッキーマウス」とのキャラクター比較で、認知度こそ及ばなかったものの、好感度という点では、ほとんど肩を並べたのだそうだ。あの世界的キャラクターとの比較、である。「それはそれで喜ばしいことですが、まだまだ海外での認知度は低い。世界でくまモンを売っていきたい。もっと熊本をPRしたい」と、成尾課長は平然とした表情で話す。
「待ちではなく攻めのゆるキャラ」
くまモン人気の影響で、全国には次から次へと誕生している、ゆるキャラ。地元のPRをしているという点では、くまモンも同じ。しかしその方法論として、くまモンの根底にあるのが、サプライズの精神だという。くまモンは常に話題を提供する存在である。「また何かやらかしちゃいました」という基本方針を持っているゆるキャラは、くまモンを置いていないのではないか、と成尾課長。確かに言われる通り。「待ち」ではなく、「攻め」のゆるキャラなのである。
ゆるキャラが企業を訪ねることなど、本来ありえないことだが、前例がないことに挑んでいくチャレンジ精神。これこそが、サプライズ。もちろん、トップの理解に負うところも大きいのだろう。
これまでに、UHA味覚糖のぷっちょ、グリコの阿蘇ジャージーポッキー、カゴメのデコポン野菜ミックスなど、多くのくまモンコラボ商品も誕生した。さらに今年2月には、くまモンの利用商品の売り上げが293億円(平成24年1年間)という数字が発表された。この数字は、県民のみならず、日本全国にインパクトを与えたようだ。
以来、雑誌の取材だけでなく、全国の自治体や議会、商工会議所、大学のゼミ、マーケティング団体などの視察や講演依頼も相次いでいる。それでも、「あくまでも我々は素人集団。ずっと自信もなく、やってきました。ただ1つ言えることは、行政として、お金があるからその予算に見合った内容でという貧困な発想ではやっていないつもり。かけたお金をいかに膨らましてアウトプットするかを常に意識しています」と胸を張る。
「小さなチャンスも逃さない」
今年7月、くまモンがフランス、ドイツ、イギリスのヨーロッパ3カ国を歴訪したというニュースが大きな話題となった。パリで行われた「JAPAN EXPO」に参加。バカラトルツメがくまモンのクリスタルのオーナメントの発売を発表し、パディントンベアの招待でイギリスを訪問。くまモン仕様のMINIが大々的に発表された。

くまモン meets Baccarat
画像クリックでpdfが開きます

1500体限定で販売されたシュタイフの
「テディベア くまモン」
KANSAI戦略を成功させたくまモンを海外へ、という話を出したのは2年ほど前のことだという。しかし当時はまだ一部の職員の夢物語。多くの職員は、「ありえない」と笑っていたそうだ。しかし、「関西の次のステップとして東京進出を考えた時に、NYやパリ、ロンドンにまず出て、そこから逆輸入するのが、いちばん注目されるのではないかと考えた」。すでに蒲島知事と共に、アジア同行を果たしていたため、次なるターゲットであるヨーロッパ訪問がいよいよ現実味を帯びることとなる。
昨年秋には、フランスで行われる「JAPAN EXPO」に参加することが決定。その後、小山薫堂氏の人脈とネットワークにより、バカラ、そしてMINIと話がつながっていったという。「本県は、国内の各自動車メーカーにお世話になっていることもあり、MINIとのコラボには気を遣いました。すでにイギリスのガーディアン紙にくまモンが好意的に紹介されていたこともあり、パディントンベアからくまモンに招待状を送ってもらうというストーリーを作りました」。こうして、くまモンがイギリスに行ってみると、パディントンベアがくまモン仕様のミニでお出迎えという、想像を超えるサプライズが実現したのだ。


「小さなチャンスやきっかけも逃さなかったからこそ、ものにできたのだと思う。流れそのものがサプライズなのです」。サプライズを楽しみ前例がないことに挑戦するという攻めの姿勢、チャンスの尻尾を逃さないチャレンジ体質こそが、現在の奇跡のようなくまモン人気を形作ってきたのかもしれない。
「目的は熊本を世界に発信すること」
世界進出を果たした直後の今年7月24日、鶴屋東館1階に「くまモンスクエア」が完成した。念願の営業部長室開設に連日多くのファンがつめかけている。開設してわずか2カ月後の9月27日には、来場者が10万人を突破。担当者の予想を上回る速さだ。
「『くまモンスクエア』はくまモンと交流できる活動拠点であり、県の伝統的工芸品などとのコラボ商品を充実することで、積極的にくまもとの情報発信をしていきたい」。そこには、チームくまモンの目的が、くまモンを売ることではなく、熊本を売ることという強い信念が感じられる。


折しも今年は、熊本の水が「国連世界の水」の最優秀賞を受賞したり、世界農業遺産に認定されるなど、熊本の財産が世界に認められるというニュースが相次いだ。「世界一おいしい水が飲めて、安全で安心な農林農産物があって、加藤・細川家に代表されるような歴史と伝統がある。そういう地域が、日本にあり、みんなが幸せに過ごしているということを、くまモンを通して世界中の人たちに知ってもらえればと思っています。そして、県民や県出身の皆さんが、郷土熊本をこれまで以上に誇りに思えるようになれればと思っています。」。
くまモンというたぐいまれなキャラクターが生まれ、育ったからこそ実現してきた数々のサプライズ。「彼とだったら、もしかしたらやれるかもしれない」と思われる存在に成長したくまモン。県民の多くも、「もしかしたら、くまモンならやってくれるかもしれない」「熊本って、すごいのかもしれない」と思い始めている。くまモンから始まった幸せの伝播こそ、熊本の元気の源。まだまだくまモンのサプライズから目が離せない。
●くまモンとは
2010年「くまもとサプライズキャラクター」として登場。新幹線元年事業アドバイザーの小山薫堂氏が、アートディレクターの水野学氏に依頼したロゴデザインのおまけとして生まれた。2011年9月から、熊本県営業部長に就任。
(取材協力/熊本県くまもとブランド推進課 成尾雅貴課長)